がんリハでのリスク管理!何に気を付ける?
以前がんリハの概要について紹介しました。
今回はリスク管理についてです。
どんな疾患でもリスクはつきもの。
しっかりとリスクを把握して介入しましょう。
目次
中止基準
まず、がん患者が安全にリハを行えるかどうかの目安が示されていますのでそちらを紹介します。
- 血液所見:ヘモグロビン7.5g/dl以下、血小板50000/μl以下、白血球3000/μl以下
- 骨皮質の50%以上の浸潤、骨中心部に向かう骨びらん、大腿骨の3cm以上の病変などを有する長管骨の転移初見
- 有腔内臓、血管、脊髄の圧迫
- 疼痛、呼吸困難、運動制限を伴う胸膜、心嚢、腹膜、後腹膜への滲出液貯留
- 中枢神経系の機能低下、意識障害、頭蓋内圧亢進
- 低・高カリウム血症、低ナトリウム血症、低・高カルシウム血症
- 起立性低血圧、160/100mmHg以上の高血圧
- 110回/分以上の頻脈、心室性不整脈
これらが全て満たされていない場合でも必要なリハビリを実施する場合もあります。
介入時は全身状態の観察を注意深く行います。
問題があると判断したらすぐに中止しましょう。
精神障害
がん患者は精神障害を抱えていることが多いです。
215名のがん患者を対象とした面接調査でわかった頻度の高い症状として
が挙げられています。
適応障害というのは、心理・社会的ストレスによって起こる不安・抑うつのことです。
それにより、日常生活になんらかの支障を生じる、または予測されるより反応の程度が強いもののことをいいます。
適応障害が起こっているからと言って、リハビリを中止する必要はありません。
むしろ、介入中の患者さんとの会話のなかで、患者さんが感情を表出することで治療的なアプローチ、いわゆる支持的精神療法となり、良い効果をもたらすことがあります。
しかし、介入方法にも注意を要します。
介入中に不安や焦燥感を表出することもあります。
なるべく、安心させられるように声掛けや話し方に気を付けましょう。
骨髄抑制
放射線・化学療法中にはこの骨髄抑制を生じる可能性があります。
各要素ごとにまとめます。
好中球
好中球が500/μl以下の場合は感染リスクが高く、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)や予防的な抗菌薬投与、防護環境(無菌室)管理などの感染予防の対策が必要となります。
血小板
出血リスクに注意が必要です。
20000~30000/μlでは、セルフケア、低負荷での自動・他動関節可動域運動、基本動作を主体とします。
20000/μl未満では、医師の許可のもと、必要最低限の注意深い運動、歩行、ADL動作にとどめます。
ヘモグロビン
10g/dl未満に減少している場合は、運動時の貧血症状に注意しましょう。
貧血症状として
- 心拍数・呼吸数増加
- 動悸
- 息切れ
- めまい
- 耳鳴り
- 倦怠感
- 頭痛
などがあります。
患者さんの状態をしっかりと診ながら介入しましょう。
骨転移
転移として多いのは脊椎、骨盤や大腿骨、上腕骨近位部です。
初発症状として罹患部位の疼痛を生じることが多いです。
初期に病変をみつけ対処しないと、四肢長管骨の病的骨折や脊髄圧迫症状による対麻痺や四肢麻痺、膀胱直腸障害が生じてしまいます。
ただでさえがんでQOLが低下しているのに、余命の間のQOLが著しく低下してしまうことに繋がります。
骨転移マネジメントの目的として
疼痛改善とともに、病的骨折を予防し、死亡する直前まで移動能力やADLを維持することです。
骨転移が起こっているかも!?と思った場合はすぐに精査するべきです。
がん患者が四肢、体幹の痛みを訴えた場合には常に骨転移を念頭におき、検査でその有無をチェックしましょう。
検査するものとして、
などがあります。
治療方針としては、腫瘍の放射線感受性、骨転移発生部位と患者の予想される生命予後などにより決定されますが、多くは放射線療法が第1選択となります。
しかし、大腿骨や上腕骨などの長管骨転移では、病的骨折を生じるとQOLの著しい低下が起こります。
そのため、このような場合は手術が選択される場合があります。
脊椎では、中部を含む後外側部に進展すると不安定性は急激に亢進し、病的骨折のリスクが高まります。
脊柱管腔へ進展すると脊髄圧迫のリスクが高まります。
こうなると起こるのが麻痺やしびれ、感覚障害といった神経障害です。
このような場合も速やかに治療を行う必要があります。
骨転移の進行抑制効果がある薬物として、デノスマブ(ランマーク)やゾレドロネート(ゾメタ)などの骨修飾薬があります。
これらは骨関連事象(SRE)である
の頻度を軽減すると言われています。
リハで注意することとして、
- 全身の骨転移の有無
- 切迫骨折・病的骨折や神経障害の程度を評価
- 骨折のリスクを認識
- 医師との情報交換
をしっかり行う必要があります。
上記を考慮したうえでプログラムも組み立てる必要があります。
元々歩けていた人が、ひょんなことから麻痺や骨折により臥床になってしまうというケースにならないよう、細心の注意を払って介入しないといけません。
血栓・塞栓症
臥床が続いている人やTHA、TKAといった整形外科手術後の方で特に注意が必要なイメージが多い血栓ですが、がん患者のリハビリでも注意が必要です。
進行したがん患者では、凝固・線溶系の異常をきたしやすく、長期の安静臥床による不動の影響もあり、血栓・塞栓症を生じるリスクが高くなります。
下肢の深部静脈血栓(DVT)の臨床症候として
- 局所浮腫
- 発赤
- 腓腹部の疼痛
- 熱感
- Homans(ホーマンズ)兆候
があります。
DVTにより、血栓が肺に達するとまた別の病気となります。
肺血栓塞栓症(PTE)といいますが、末梢肺動脈が完全に閉塞すると肺組織の壊死がおこり、肺梗塞をきたします。
突然のショック症状により死亡する率が高いのでDVTの予防をしっかりと行う必要があります。
DVTが発見された場合は、抗凝固療法を開始します。
静脈瘤や浮腫などの血栓後症候群(PTS)予防のために、弾性ストッキングを着用します。
胸水・腹水
胸水が貯留している患者で、安静時に呼吸困難が生じている場合には、呼吸法の指導やベッド上での体位の工夫が有効です。
軽度の動作によってすぐにSpO2が下がってしまう場合は、できるだけ少ないエネルギーで動作を行えるよう指導する必要があります。
呼吸困難感のある患者で注意すべきは上肢の使用です。
頸部周囲にある呼吸補助筋は上肢の運動の際にも筋活動が起こります。
上肢動作によって呼吸補助筋の使用が妨げられ、呼吸困難を悪化させてしまう場合があります。
四肢に浮腫がみられ、胸水や腹水が貯留している場合、圧迫やドレナージによって胸水や腹水が増悪することがあります。
この際
- 呼吸困難感や腹部膨満感といった自覚症状の変化
- SpO2の低下
などに注意しながら対処しましょう。
特に、尿量が少ない場合は慎重に対応しましょう。