予防のススメ

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神経系モビライゼーション

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 今回はタイトルの通り、神経系モビライゼーションについて紹介します。

 僕自身、この言葉や手技は働き始めて日本理学療法士協会の新人プログラムで知りました。

 自己研鑽も含めて紹介しようと思います。

 参考文献は一番下に書いておきますね!

 J STAGEで見ることができます。

 

目次

 

 

対象

 理学療法士が遭遇する筋骨格系障害には神経系機能障害が合併していることが多いです。

 しかし、そうした問題に対して神経系の関与は過小評価されている傾向があります。

 実際に、僕が働き始めてから知ったのもその影響なのではないかな~と思います(ただの学習不足だと思いますがね(笑))

 

 実際のところ、神経系要素が関与していることは多く、筋骨格系に加えて神経系の機械的・生理学的機能を考慮した包括的な理学療法を展開する必要があります。

 

 では、実際に対象となる組織はどこなのか?

 以下の3つになります。

  1. 神経系組織(神経伝導に関与する神経線維とそれらの結合組織)
  2. インタフェース(神経周囲にある筋、腱、骨などの筋骨格系組織)
  3. 支配される組織(皮膚、筋、骨、筋膜、血管)

 

 神経系の一部を構成する結合組織は

  • 末梢神経系:神経内膜・神経周膜・神経外膜
  • 中枢神経系:硬膜・クモ膜・軟膜

があります。

 これらの結合組織には神経支配がみられ、侵害受容性疼痛の原因となります。

 神経系に起因する症状として

  1. 神経伝導に関与する神経線維に起因する筋力低下、感覚障害、神経因性疼痛などの症状
  2. 神経系の結合組織に起因する可動域障害、侵害受容性疼痛

の2つの要素があります。

 

神経系の機械的機能

 全身に分布する神経系には日常の身体運動や機械的な力に適応するメカニズムが存在します。

 神経系が正常に働くためには以下の機能がしっかりと働かなければなりません。

緊張

 緊張というのは、神経がゴムのように伸びる機能です。

 神経組織のなかで過剰な緊張に対して最も抵抗できるのは神経周膜です。

 神経周膜は長軸方向の強度と弾性に優れており、18~22%の伸張に耐えることができます。神経系に対する伸張に対して最初に反応し、末梢神経を保護します。

 坐骨神経では50kg以上の緊張に耐えることができると言われています。

 

滑走

 滑走というのは、隣接する組織に対する神経系の相対的な動きのことであり、神経系の緊張を消散するための機能です。

 神経系は緊張の高まった領域の方向に滑走し、新経路全体の緊張の平衡を保とうとします。

 そして、この滑走は長軸方向だけでなく、横断方向にも滑走があります。

長軸方向

 先ほども述べましたが、神経系は伸張により緊張が高まった方向に滑走します。

 神経系の緊張を分散するために、緊張が高まった部位に神経系が「貸し出される」ような動きが見られます。

 そして、長軸方向の滑走には2つの次元があります。

 

1. 神経系とインタフェースとの間の滑走

 術中の生体観察や屍体観察において明確に区別できる神経鞘と呼ばれる組成結合組織からなる多層性の薄い膜が存在します。

 跳躍伝導されるところですね!

 この神経鞘は、腱の周囲にある滑膜と同じように機能することが観察されています。

 この神経鞘によってインタフェース内での末梢神経の滑走が可能となります。

 

2. 神経束内の滑走:神経外膜

 神経滑走のもう一つの次元は、隣接する神経束間の滑走のことをいいます。

 神経束間の滑走は神経束間にある疎性結合組織からなる神経外膜によって許容されています。

 

横断方向

 生体内でのインタフェースによる圧迫を回避するために神経系は横断方向へ滑走します。

 例えば、手関節部で屈筋兼の動きに伴って正中神経の横断方向の滑走がみられます。

 また、足関節上を走行する浅腓骨神経に緊張が加わったときに横断方向の滑走がみられ、2点間の最短距離を走行しようとします。

 このような横断方向の滑走は徒手的に検査・治療が可能です。

 

圧迫

 神経組織は加えられた力に対して変形します。

 例えば、肘関節が屈曲するとき、尺骨神経は肘関節部で圧迫されます。

 また、脊柱の伸展や同側側屈によって椎間孔で神経系に圧迫が生じています。

 このように神経系にはインタフェースからの圧迫力に耐える機能が求められます。

 圧迫に対して緩衝材の機能を果たすのが神経外膜なのです!

 

 

このような機械的機能は外傷、疾患、不動により失われ、しびれ、疼痛、可動域障害の原因となる危険性があります。

 

関節運動が神経系に及ぼす影響

 関節運動に伴う神経系への機械的影響は、その関節の運動軸に対する神経の位置により異なります。

 運動軸の前方に位置する神経系は緩み、運動軸の後方に位置する神経系は伸張されます。

 このとき正常では関節運動に伴う部分的な緊張を消散するように神経路の両端から神経系が滑走する収束という現象が見られます。

 収束がみられるため単関節の運動時には神経組織にはそれほど緊張が加わりません。しかし、複数の関節が動く場合は、特定の関節方向への神経滑走量が低下し、やがて神経が伸張されるようになります。複数の関節が動かされるときは最も動く関節の近くで収束が顕著になります。

 頸部に注目してみましょう!

 頸椎屈曲によりC5/6頸椎よりも上位の神経組織は隣接するインタフェースに対して尾側に動き、C5/6頸椎よりも下位の神経組織はC5/6方向に動きます。

 脊柱全体の屈曲では、L4-5レベルより上位の神経組織は尾側に動き、L4-5レベルより下位の神経はこの頭側に動きます。

 このように脊柱運動に伴う神経組織の「貸し借り」は、最も動きのあるC5-6とL4-5方向への収束として起こります。

 

滑走の方向

 特定の運動が特定の滑走を引き起こします。

 例えば、頸部屈曲により腰椎領域の神経組織は頭側方向に滑走しますが、SLRにより腰仙椎領域の椎間孔内の神経根と頸髄は尾側方向に滑走します。

 また、神経の滑走方向は身体要素を動かす順序によっても異なります。最初に動かした領域や強く動かした領域の局所的な反応が大きいです。

 

 用いる運動、運動の順序、問題としている部位によって、インタフェースに対する神経組織の滑走が異なることから、神経系の検査・治療ではこのような要素を考慮することが重要です。

 例えば、手関節部の正中神経に対して、症状を誘発しないようにするためには、手関節を動かすことにより手関節部の正中神経に強い影響を与えるのではなく、肘関節の屈曲/伸展を用いて手関節の正中神経を動かすことができます。

 これが、「遠くから開始する」方法です。

 

 逆に標準的な検査・治療では患者の訴える症状や問題が明らかではない場合、関連する神経を最初に動かすような順序を選択します。問題となっている部分を最初に動かすということですね!

 例えば、身体徴候を検知することが難しく、症状が再現されにくい足根管症候群や踵痛の場合は、最初に足関節・足部の背屈/外返しを行い、その後にSLRを行います。これが「局所から開始する」方法です。

 

関節可動域と神経系の働き

 関節運動に伴う神経系の反応は関節可動域により変化します。

 可動域の最初では神経系に緩みが次第になくなり、関節の中間域では神経の滑走が起こります。最終可動域に向かうにつれて神経系の滑走が減少し、次第に緊張が高まります。このような基本的原理を検査・治療に生かすことができます。

 たとえば、神経系への影響を最小限にし、神経系にあまり負荷を加えたくない場合は、可動域の最初における緩みの範囲で動かすことができます。

 また、神経を滑走させるには関節の中間域で大きな振幅で動かします。

 さらに、神経系に緊張を加え、粘弾性を変化させたい場合は、関節の最終域近くでの小振幅運動を用います。最終可動域までの大きな振幅のモビライゼーションを行うことにより神経の滑走と緊張が起こります。

 神経系組織に力を加えたときの粘弾性効果の多くは数秒以内に起こります。したがって、粘弾性効果を目的とした神経系モビライゼーションは短時間とすべきです。

 長時間にわたる手技は神経内の虚血をもたらし、神経組織にリスクを与えます。このようなリスクを避けるためには、最終可動域に長時間保持するようなストレッチよりも反復運動によるモビライゼーションのほうが安全です。

 

 今回はこの辺で!

 次回は神経系モビライゼーションの種類について紹介しようと思います。

 

参考文献

齋藤昭彦:神経系に対するモビライゼーション.理学療法学,2009,36(8):p468-471.