寝たきりの弊害を呼吸機能から考える
どうも!みぃむです!
廃用症候群という言葉は医療に携わる人なら誰もが聞いたことあると思います。
では、廃用症候群と聞いてどんなことが思い浮かびますか?
「筋力低下」が真っ先に思い浮かぶのではないでしょうか。
あるいは関節可動域制限、拘縮でしょうか。
それ以外の影響もありますが、あまり考えないですよね!
今回は廃用症候群になる「寝たきり」による弊害を、「呼吸機能」に着目して解説していこうと思います!
目次
臥床が呼吸機能へ与える影響
肺気量位の変化
まず、肺気量が変化します。
背臥位になることで、内臓の重さにより横隔膜は胸腔方向へ伸展します。横隔膜より尾側にある内臓が頭側へ偏位するという表現をする場合もありますね!
そうなると、FRC(機能的残気量)が減少します。
FRCが減少すると安静換気の呼吸基準位が減少することになります。
これは、肺が縮小することを意味します。
また
- 肺内シャントの増加
- 換気血流比不均等
も引き起こし、酸素運搬能を低下させます。
FRC(機能的残気量)
ここでFRCを復習しておきましょう!
FRCは
安静時呼気終末の時点で肺内に残っている空気の量
を指します。
FRCがあることで、末梢気道の虚脱が生じず、無呼吸時にも酸素化を維持することができるのです。
特徴的なのがこのFRC、姿勢によってかなり変化します。
座位から臥位になると、FRCが15~20%、文献によっては30%減少すると報告されています!
驚きの変化ですよね。
血流の再分配
立位では、静水圧的影響、あるいは重力の影響で血液は下肢、主に足部へと流れていきます。そうなると、体幹にある肺には血液量の減少が起こります。
逆に臥位になることで、血液は頭側方向へ移動します。縦に長い人間が横になると、全身に血液がいきわたるようになりますよね。立位では少なかった肺内血液量も、臥位になることで血液量は増加します。
しかし、血液量が増加することで含気量が減少し、全肺気量、肺活量も減少することになります。
この現象は、左心不全の患者さんにとっては負の影響であり、肺うっ血を悪化させることに繋がります。
左心不全の患者さんは起坐呼吸を呈します。背臥位だと苦しくなるのは、肺への血液量が増加し、肺うっ血が起こり呼吸苦を呈するのです。
そのため心不全の患者さんは少しでもギャッチアップをしていたほうが呼吸が楽なのです。
末梢気道の閉塞
末梢気道の太さは肺気量に依存し、最大吸気位では肺胞、末梢気道は拡張します。
肺気量位の変化の項で、肺が縮小すると述べましたが、肺が縮小することで肺気量も当然縮小します。
低い肺気量で呼出すると、肺胞・気道は縮小し、やがて閉塞します。
ここでクロージングボリュームについてご紹介します。
クロージングボリューム
クロージングボリュームというのは、
最大吸気位から呼気位までゆっくり吐き出したときに末梢気道の閉塞が始まる肺気量位
のことを指します。
背臥位ではFRCが減少し、安静呼気位がクロージングボリュームに近づきます。つまり、末梢気道の閉塞が起こりやすくなります。さらに、このクロージングボリュームは加齢により変化し、徐々に増加します。寝たきりの高齢者は末梢気道の閉塞が起こりやすくなっております。危険ですね。
末梢気道が閉塞するため、長期臥床状態では無気肺が発生しやすくなります。
肺内血流量の変化
血液の再分配の項でも述べましたが、静水圧的な影響で血液は尾側へとシフトします。これは肺内でも同じことであり、肺尖部よりも肺底部へとシフトしています。背臥位時に比べると大きな静水圧的な圧格差が生じます。
しかし、横隔膜に近い肺底部の換気量は肺尖部に比べると大きいです。実際、肺の形を見てもわかると思いますが、肺尖部より肺底部のほうが大きいですよね。
血流分配と換気が一致していますよね。呼吸の勉強をしている人はピンとくるかもしれませんが、いわゆる換気血流比が一致している状態なのです。
ですが、背臥位になると血流分配は大きく変化します。肺底部への血流はあまり変化しませんが、肺尖部は著明に血流が増加します。頭尾方向への血流は一致します。しかし、血流は重力の影響などから背側方向へ血流が流れます。
かえって空気は軽いため、背側ではなく腹側で換気量が増加します。
背側に溜まる血液、腹側に溜まる空気。いわゆる、換気血流比不均等です。
言葉を知っている人はわかると思いますが、ガス交換効率が非常に悪い状態です。さらに、前述した通り末梢気道の閉塞も加わるため、動脈血酸素分圧は減少します。
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安静臥床の呼吸器系への影響
ここでは安静臥床によって引き起こされる呼吸器系への影響を述べていきます。
胸郭の可動性低下
胸郭には外肋間筋、内肋間筋などの筋肉があります。さらに、肋骨は脊椎に付着しており、関節には靭帯もあります。
廃用症候群では筋力低下や拘縮がすぐに思いつくとでしょうと冒頭で述べましたが、ここでも言えますよね。
呼吸筋や関節包、靭帯などの短縮が起こります。
また、胸郭のコンプライアンス(胸郭の柔らかさ)は加齢とともに減少し硬くなりやすいです。それにより、肺活量の減少が起こります。
呼吸筋弱化
はい!廃用と言えば筋力低下!呼吸筋も当然起こります。
吸気筋力は90~100cmH2Oあります。しかし、安静呼吸時は5~10cmH2O程度の収縮力です。最大吸気でも40cmH2Oの収縮力なのです。
また、呼気筋力も70~130cmH2Oの収縮力があると言われております。しかし、呼気時に関しては呼吸器系の弾性収縮圧の力のみで行えます。安静呼気時に腹筋群に力を入れて息を吐いていませんよね。そのため、安静時の呼気筋力の活動は不要です。
吸気時、呼気時共に筋収縮力が少ないため、廃用により呼吸筋の弱化が起こります。
肺活量の減少
上記の「胸郭の可動性低下」、「呼吸筋弱化」の影響により肺活量の減少が起こります。
報告によると
- 21日程度の臥床では、肺活量努力性肺活量に影響はなかった
- 113日で肺活量の減少が起こった
と言われています。
咳嗽力の低下
そもそも、咳嗽というのは
腹圧(気道内圧)を高めた後に急激に声門を解放して強く速く呼出する運動
を指します。
吸気筋弱化により、腹部臓器の重さにより咳嗽に必要な吸気量が十分に得られず、咳嗽力が低下します。
呼吸パターンの変化
胸郭の可動性が低下し、呼吸筋も弱化し、肺活量が減少した状態。呼吸は生命維持に必要な要素。挙げられるのは呼吸回数のみです。
安静臥床が続くと呼吸回数を増やすしか選択肢はなく、浅速呼吸となります。
下側肺障害
これまでに紹介したFRC減少、末梢気道の閉塞により無気肺が生じやすくなります。
臥床時、背臥位でいることが多く咳嗽力も低下し気道内分泌物を喀出できないため、背側(下側)肺障害が形成されます。
いかがでしょうか。
寝たきりと呼吸器に着目する機会はあまりなかったかと思います。
簡単な予防としてはベッドから身体を起こして身体活動を促すこと!
身体活動が困難な場合はギャッチアップ座位や側臥位などの背臥位以外の姿勢を取ることです。
理学療法としての介入方法としては胸郭可動域練習や呼吸筋ストレッチなど、呼吸理学療法を実施していくべきでしょう。
参考文献
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