行動変容についてー理論・モデルの紹介
前回から引き続き、行動変容についてです。
前回の記事はこちら
今回は実際に、理論・モデルを紹介していきます。
目次
オペラント学習理論
名前にある学習理論というのは、主に動物実験によって築き上げられてきました。
このオペラント学習理論もその一つです。
オペラントという名前でピンとくる人もいるかもしれませんが、オペラント条件付け(ある行動が起こった時にすぐに強化を随伴させる方法)のを考えたSkinnerによる理論です。
この理論では、行動を
- 先行刺激(きっかけ)
- 行動(反応)
- 強化刺激(結果)
という流れで解釈していきます。
行動が起こるには、行動を出現させる「きっかけ」があり、行動が終わった後には、「結果」があるという考え方です。
上に書いたオペラント条件付けによって形成されると考えられています。
実際にどのように行えばいいのか。
過食傾向の肥満者を例に紹介します。
- 過食の「きっかけ」とその「結果」との結び付きを食事記録を通して詳しく認識する
- 過食につながるストレスを上手にコントロールする方法を学ぶ、おやつなどの食べ物の買い置きを減らす(きっかけへの働きかけ)
- 毎日体重を測定し、設定した行動目標を達成できたら自分自身で報酬を与える(「結果」への働きかけ)
喫煙やダイエット、運動習慣を行う上でも使えそうですね。
喫煙の場合は、喫煙本数を決めて、それを守り徐々に少なくする や、
運動習慣をつける場合は、運動時間を最初は短く設定して、徐々に伸ばしていく などですかね。
しかし、オペラント学習理論の批判として、人間の認識や価値観を考慮しておらず、人間の単純な行動のメカニズムを説明することはできても、より複雑な社会的行動を説明するには限界があることが指摘されています。
前回の記事にも書きましたが、人には心理・社会性というものが関わってきます。
そこにも考慮することが実際には望ましいですが、オペラント学習理論にはそれが含まれていません。
そこで、認知的要因を重視した学習理論が登場しました。
社会的学習理論
人間の行動を人と環境と行動の三者の相互関係の中で捉え、人間行動を説明しようとする理論です。
この理論は、行動の形成や変容がその行動結果のみに依存すると考える従来の学習理論を越えて、他人の行動の観察学習やシンボルによっても行動が形成され変容されるとしています。
また、直接経験する報酬や処罰だけでなく、他人の報酬や処罰を見たり、自己強化(自己報酬や処罰)によって行動が変容されるというセルフコントロールの考え方を提唱しています。
さらに、自己経験や代理経験を通して自己効力を強化することにより行動が変容されるという新しい概念も提唱されています。
個人的に重要なのは
- 人と環境と行動の相互関係
- 自己効力を強化
だと思います。
相互関係について、人は行動で結果が変わるというのは、オペラント学習理論でも述べました。
しかし、行動と結果だけでなく、そこには環境要因も関わります。
例えば、家と職場の距離が遠い人は自動車か電車で通勤します。
また、通勤時間がかかってしまえば、運動する時間も限られてしまいますよね。
工夫をすれば通勤時間中に運動を盛り込むことも可能ですが、これが環境要因です。
簡単な紹介になってしまいましたが、日常の中には、あなたがやりたいと思っていても中々思うようにいかないことが、実は環境によって制限されている可能性もあるということです。
他の例えとして、友達に喫煙者が多ければ流されて喫煙をするなんてことも考えられます。
交友関係も一種の環境要因です。
次に、自己効力を強化 することに関してです。
自己効力感、またはセルフ・エフィカシーという言葉をご存知でしょうか。
ある行動を遂行することができる、と自分の可能性を認識していること
とされています。
自己効力感が強いほど実際にその行動を遂行できる傾向にあります。
簡単に言うと、できるぞ!っていうやる気みたいな感じですね。(松〇修造さんをイメージするとわかりやすいかもしれません(笑))
この自己効力感があることで人は自信がつき、次の行動を行いやすくなります。
社会的認知理論
上記の社会的学習理論に、自己効力感を中心概念としたものがこちらになります。
この理論の前提に
- イメージ化することができるシンボル操作能力
- 予測する能力
- 他者を観察することによって学ぶ代理能力
- 価値観や信念といった自分自身の基準や自己評価によって行動を調整する自己調整能力
- 分析・予測・修正などの反省能力
などが挙げられています。
これらは、自己や他者の体験から成り行きを予測したり、行動をイメージ化するのに必要な能力で、自己効力感を引き出す上で重要となってきます。
セルフ・ビリーフ・モデル
このモデルによると、ある疾病を予防する行動を実行するには、
- ある疾病の恐ろしさの自覚
- 予防的保健行動をとることによる利益と負担の損益計算の理解
が重要な要因とされています。
前者は、
「疾病のかかりやすさの認知」×「疾病の重大さの認知」
となります。
そして、後者は予防行動の利益と負担に対する各々の期待と価値の積の差となります。
また、このモデルは自己効力の概念を取り込み、モデルの拡張が図られています。
自己効力感、大事ですね。後ほど詳しく紹介できればと思います。
では、実際にどんな方法でアプローチするのか。
- 健康リスクの認知を高める(デメリットを伝える)
- 効果への期待感を高める(メリットを伝える)
- 心理的負担感を減らす
となっています。
個人的には3の心理的負担感を減らすのがとても大変なんじゃないかなと思います。
正直、「面倒くさい」という一言で運動をしない人が多い気がします。
その負担を以下に減らせるかがカギですね!
保健行動のシーソーモデル
このモデルによると、保健行動を促進する要因(動機)と、保健行動を妨げとする要因(負担)の力関係の中で、行動の実行が決定されるというものです。
動機と負担の2つの要因のうち、動機に傾けば行動に移すことが可能となるため、シーソーなのではないかと思われます。
さらに、シーソーの支点を動かす力として、行動を実行する自信感や周囲からのサポートがあるとされています。
自信があれば行動しやすいのは、上記のセルフ・エフィカシーで話しましたね。
他に周囲の人、例えば友人や先輩、後輩からのサポートがあればより行動しやすいと思います。
そしてシーソーの支点が動機側に移っていけば、てこの原理により、動機側が倒れやすくなります。
行動変容のステージモデル
これは以前のブログにて紹介させていただきましたが、簡単にまた書かせていただきます。
- 前熟考期(無関心期):自分自身の行動を変容する意思が全くない段階
- 熟考期(関心期):患者は何か問題があることに気づいて何かをしようと考えているがまだ行動に移していない段階(6ヶ月以内に行動を変えようと思っている)
- 準備期:1ヶ月以内に行動を変えようと思っている
- 実行期:問題を解決するための効果的な行動を実行して6ヶ月以内
- 維持期:行動を変えてから6ヶ月以上継続できている
各期間に合わせたアプローチが必要になります。
いかがでしょうか。
いくつか理論やモデルがありますが、似たようなところがあったり、個別性のあるものだったりと様々だったと思います。
具体的なアプローチについて書けていないのでそれもまた後日ご紹介できればと思います。
文字ばかりの記事ですいませんorz
参考文献
1)中村正和:行動科学に基づいた健康支援.栄養学雑誌,2002,60(5):p213~222.
2)江本リナ:自己効力感の概念分析.日本看護科学会誌,2000,20(2):p39~45.
3)益子育代:行動変容(behavior modification).アレルギー,2017,66(3):p238~239.