バランスの構成要素~筋骨格系~
前回、この画像をお見せして終わりにしてしまいました。
前回の続きで、バランスの構成要素についてまとめていきます。
前回の記事はこちら↓
目次
姿勢制御
前回、紹介しそびれたのでここで紹介します。
Shumway-Cookは姿勢制御(postural control)を
- 安定性(Stability)
- 定位(orentation)
に分けています。
そして、安定性がバランスや平衡と同義であるとされています。
定位というのは、
動作に関与する複数の体節間同士の関係、および身体と環境との間の関係を適切に保持する能力
とされています。
筋骨格系
カッコよくいうと、「生体力学的視点」からみたバランスですね(笑)
身体重心から支持基底面に引いた線を身体重心線といいます。
この身体重心線は
身体部位の位置関係、つまりアライメントによって決まります。
そして、身体重心線をコントロールしているのは身体が支持面から受ける力、つまり床反力の水平成分です。
床反力と重心線は常につりあっています。
立位の前後方向において身体重心線が前方に移動すると、身体重心線を後方に移動するように、より前方から床反力が作用します。
それによって身体重心線が後方に移動すると、より後方から床反力が作用して身体重心線を前方に移動させます。
この過程を繰り返すことで、身体重心線は床反力によってコントロールされ、安定性限界内に収まっています。
そして、この身体重心線をコントロールする床反力の水平成分は筋収縮力によって担われております。
つまり、バランスを保つためには
- アライメント
- 神経系による筋収縮力の調節
- 筋自体の機能
- 適切な骨関節機能
が重要になります。
アライメント
アライメントには「並べる、整列、比較」などの意味があります。
よく姿勢と同じような意味で使われますよね。
ちょっと違うので気を付けましょう。
さて、このアライメントですが
- 前額面(前方・後方から見たとき)
- 矢状面(左右からみたとき)
で評価をすることができます。
その際、ランドマークを見て左右を比較します。
前額面
前額面では、以下の5つのランドマークが垂直線上にあるとき、アライメントがよいと判断されます。
- 後頭隆起
- 椎骨棘突起
- 殿裂
- 両膝関節内側のあいだの中心
- 両内果のあいだの中心
矢状面
矢状面でも同様、以下の5つのランドマークが垂直線上にあるとき、ランドマークがよいと判断されます。
- 乳様突起(耳垂のやや後方)
- 肩峰(肩関節前方)
- 大転子
- 膝関節中心のやや前方(膝蓋骨後面)
- 外果の前方(足関節のやや前方)
ここをまずしっかりと評価できるようになることがまず重要ですね!
詳細
もっと細かく姿勢をみたい場合はこのような点も見てみましょう!
立位の場合ですが
- 前額面、矢状面上の上半身質量中心位置
- 両腸骨稜、上前腸骨棘、両上後腸骨棘を指標とした骨盤アライメント(骨盤傾斜、骨盤回旋)
- 脊柱棘突起を指標とした腰椎前弯、胸椎後弯の程度
- 両肩峰の位置や肩甲骨アライメント
- 両最下肋骨の位置や胸郭の形状、胸骨下角の開き具合
- 触診による肩甲帯周囲筋から腰背部、股関節・大腿周囲の筋緊張の程度・左右差
- 大転子位置の左右差(高さ、前後)
- 膝蓋骨位置の左右差(高さ、側方)、腓骨位置の左右差(高さ、前後)、足関節内外果位置の左右差(前後)
などです!
姿勢観察の意義
姿勢を見ることで、身体重心線がどこを通っているかがわかります。
身体質量のうち体幹の占める割合は半分以上と非常に大きいです。
体幹のアライメント変位が、体幹を支える下肢に与える影響も大きくなることが予想できますね。
すなわち、姿勢を評価することの重要性は
上肢を含めた体幹の質量変位が荷重関節に加わるメカニカルストレスに大きな影響を及ぼしていることに起因します。
特に下肢関節疾患における姿勢評価は、その姿勢が機能障害の原因なのか、あるいは結果なのかを判断するための重要な評価法の一つです。
運動連鎖
ついでに、運動連鎖についても紹介しようと思います。
日常生活では単関節運動ではなく多関節運動が主体です。
そのため、多関節運動連鎖の視点から姿勢や動作を考えることは非常に有用です。
運動連鎖には上行性、下行性が存在します。
ある関節が動くと、それが上下関節に波及していきます。
よくある例として、正常な場合の骨盤からの下行性運動連鎖を紹介します。
骨盤の前傾運動により以下の運動が起こります。
- 股関節:屈曲・内転・内線
- 膝関節:伸展・外反・外旋
- 距骨下関節:回内
対して、骨盤が後傾することで、このような運動が起こります。
- 股関節:伸展・外転・外旋
- 膝関節:屈曲・内反・内旋
- 距骨下関節:回外
近位の運動が遠位へと運動の形を変えながら伝わっていきます。
これが、何らかの原因により偏った運動連鎖を多用せざるをえなかったり、正常な運動連鎖から逸脱した場合に、病態や症状発生の要因になりやすいです。
また、例えとして骨盤から下肢への下行性運動連鎖を紹介しましたが、足部からの上行性運動連鎖も存在します。
さらに、骨盤前傾することで、腰椎は伸展します。
これが持続することで腰痛が発生する可能性もありますね。
骨盤が動くことで腰椎やその上位へも波及する、骨盤からの上行性運動連鎖も存在します。
神経系による筋収縮力の調節
バランスにおいては、この神経系による筋収縮力の調節の乱れが身体の動揺や動作のタイミングの異常として観察されます。
ここに該当するものとして
- カウンターウェイト
- カウンターアクティビティー
- カウンタームーブメント
があると思われます。
これらについて簡単に紹介しようと思います。
カウンターウェイト
これは、目的とする筋活動の水平方向の運動成分に対して、直接動作に関係ない身体部位を運動方向と反対側に移動させ、身体質量を利用して運動を制御する活動です。
もっと簡単にいうと、 第一種のテコ のような働きです。
カウンターウェイトの活性化は身体重心と支持基底面との関係において最も基本的で重要な機能です。
この活動なしに動的安定は得られません。
この活動とともにカウンターアクティビティやカウンタームーブメントが働くという解釈が重要となります。
カウンターアクティビティ
運動が広がる過程において、運動あるいは回転方向と拮抗する筋で制動する動きのことを言います。
ここで重要なのは、支持基底面に接する身体部位を介する床反力を利用して重心運動の制御を行っている点です。
床反力を用いた身体重心の制動が困難な状況の場合、カウンターウェイトの活性化を優位にさせた運動連鎖パターンを用いざるを得ません。
逆に、カウンターウェイトの活性化が有意の運動連鎖パターンが問題の場合は、身体重心に接している身体部位の活動に着目した支持性の評価が重要なポイントになります。
カウンタームーブメント
2つの身体部位から同時に開始し、相反する運動によってお互いを制動する活動のことを言います。
これは、動作の効率性を高めるために重要です。
例えば、
- 歩行時の下肢の振出に対する対側上司の振り
- リーチ動作における上司の運動に対する下部体幹および骨盤の逆回転
などがこの活動に分類されます。
全てをまとめた図がこのようなものになります。
先行随伴性姿勢調節
学術的な話からになってしまいますが、非随意運動は随意運動に随伴して姿勢や筋緊張などを自動的に調節する役目を果たしており、大脳基底核から脳幹への投射システムが関与していると考えられています。
主動筋に先行して非随意的に姿勢を制御するシステムは先行随伴性姿勢調節(anticipatory postural adjustments;以下、APA)と呼ばれています。
神経系の部分でも話すのでここでは紹介だけで終わりにします。
筋自体の機能
筋自体の機能としてまず該当するのは筋力低下ですね。
筋力が低下していれば当然、立位や座位姿勢の保持が困難になります。
アクティブサブシステム
よくバランスに関するものを調べていると「コアスタビリティ」なんて言葉を聞くと思います。
「コアがしっかりしていればブレない」なんて言いますよね。
その中に、筋や腱なども含まれています。
筋、筋膜、腱などの動的に運動を制御するものをアクティブサブシステムといい、
- 運動制御による安定
- 運動生成
に関わります。
コアスタビリティにおいて4つ重要なものがあります。
- 上部の横隔膜
- 前部の腹斜筋、腹横筋
- 下部の骨盤底筋軍
- 背部の脊柱起立筋、多裂筋
この4つで上下前後左右から体幹を取り囲むようにしています。
こうすることで、腹腔内圧を高め、効果的に脊柱を伸展位に保持しています。
ちなみに、お腹を膨らませるとコアユニット全体が働きます。
この話を深めるためにもう少し細かく説明しようと思います。
体幹の特徴
脊柱における筋の特徴に関して、Bergmarkが脊柱の動的安定性に関与する筋を、機能的な役割から
- ローカルシステム
- グローバルシステム
に分類しています。
ローカルシステム
これには、体幹深層で脊柱に起始停止を持つ筋が属しています。
- 腰椎の弯曲
- 椎体間の機械的安定性などの局所の調節
に関与しています。
多裂筋や棘間筋、腹横筋、内腹斜筋(胸腰筋膜に付着する線維)、横隔膜、骨盤底筋群などが該当します。
グローバルシステム
胸郭と骨盤に起始停止を持つ大きな筋が属しています。
- 脊柱全体の運動を調節
- 体幹に加わる外的負荷と均衡を保つ
作用があります。
腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋などが該当します。
この2つのシステムが相互に作用することで理想的な脊柱の分節的運動を生み出しています。
話をアクティブサブシステムに戻します。
このシステムに機能不全があると、表層の腹直筋や脊柱起立筋で運動を制御、生成します。
本来は脊柱全体の運動を行うグローバルシステムが働くと、脊椎1つ1つの分節的な動きができなくなってしまいます。
結果的に、努力性、固定的要素が強くなり、外乱刺激に対して弱く、四肢の動きに制限が生じます。
腹横筋や多裂筋など深層の筋群が先行的に働き、表層の筋群で適切に運動を制御、生成できることが理想です。
つまり、ローカルシステムのAPAがしっかりと働くことが大事になってきます。
ニューラルサブシステム
筋紡錘、ゴルジ腱器官、靭帯などからの情報を基に、
- 筋出力の調整
- 収縮のタイミングを調節する
機能を持っています。
筋は神経系でいうと末梢部にあたります。
この末梢部が適切に情報を脳へ伝えられなくなることで
- 筋出力が発揮できない
- 筋収縮のタイミングがズレる
といったことが起きます。
単関節筋と多関節筋
基本的な部分なので簡単にまとめます。
単関節筋
- 一つの関節を越える筋
- 関節の安定化
- 姿勢保持筋に多い
- 遅筋線維が多い
多関節筋
- 複数の関節を越える筋
- 関節の運動性を引き出す筋
- 速筋線維が多い
バランスを考えると、単関節筋がしっかり働くことが重要になります。
適切な骨関節機能
これは純粋に関節可動域制限(以下、ROM制限)が該当します。
ROM制限があることで
- 静的立位姿勢の保持困難
- 正常な筋発揮困難
になることが考えられます。
これにより、姿勢制御を行うための動きが制限されます。
また、コアスタビリティの機能として、パッシブサブシステムというものがあります。
パッシブサブシステム
骨・靭帯・関節法などの静的に運動を制御するものを指します。
アクティブサブシステムと共同で運動を制御します。
骨や靭帯は単なる支持組織としての役割だけではありません。
- 関節への荷重情報
- 間接の位置感覚を中枢へ伝える
という、神経系の機能の一部も担っています。
長くなりしっかりまとまっているか不安ですが、これで筋骨格系については終わりです。
次回も引き続きバランスの構成要素についてまとめようと思います。