タバコと子どもとの関係性①
「タバコは成人してから」というのはよく聞きますよね。
では、なぜ成人になってからなのか考えたことはありますか?
当然、子どもの頃から吸っていると、成人以上に害があるからです。
しかし、それについて知っている人は少ないのではないでしょうか。
あるいは、成人してから吸っている人が大半なため、子どもに気を遣わずに吸っている人がほとんどなのではないでしょうか。
今回は、タバコと子どもとの関係についてまとめていきます。
目次
定義
今回、子どもを20歳未満と定義し、
- 発生期(妊娠から胎芽期まで)
- 周産期(妊娠中期から生後1年まで)
- 乳児期・幼児期(1歳から小学校入学まで)
- 学童期(小学校)
- 思春期(中学から20歳未満)
とし、上から順にまとめていきます。
これで気づくかと思いますが、喫煙の影響は妊娠時から関わってきます。
発生期
妊娠から胎芽期までという、子どもがまだ生まれていない期間に、喫煙とどのような関係があるのでしょう。
不妊
タバコによって妊娠そのものが成立しなくなります。
つまり、子どもが作れない状態になってしまうのです。
これは、女性側だけでなく、男性側にも要因がある場合もあります。
男性側の要因として、
などがあります。
女性側の要因として、
- タバコ成分の卵巣への毒性
- ニコチンなどによる卵巣寿命の低下
によって月経不順、続発性無月経の多発、閉経が1~2年早まることなどが挙げられています。
望まない妊娠
月経不順があると、中絶の遅れなどから、望まない妊娠につながる可能性があります。
実際に、10代妊婦の喫煙率は高いそうです。
平成18年の調査によると、喫煙率は
- 妊娠前:49.5%
- 妊娠中:13.1%
だったそうです。
また、これは虐待にもつながる原因とも考えられています。
周産期
ここから妊娠中~生後1年までの子どもの喫煙によるリスクについて紹介します。
低出生体重児
妊婦が喫煙者であったり、受動喫煙を受けていると低出生体重児になりやすいです。
低出生体重児の何が問題なのでしょう?
答えはシンプルです。
低出生体重児そのものが、将来の成人病発症のリスクファクターなのです。
そのため、妊婦だけでなく、妊婦周囲も含めて禁煙が必要となります。
早くやめることが望ましいですが、妊娠後期までにやめると体重減少が少なくなるという報告があります。
しかし、すぐに禁煙することはできないので、早めの禁煙対策がおすすめですね。
DOHaD仮説
どのような仮説かというと、
新生児死亡率が高い地域では心血管死が多いという疫学的研究成果をもとに2500g以下の低出生体重児は心血管障害のリスク因子である
というBarker仮説をBarkerらが提唱しました。
この仮説が後にDOHaD仮説に発展しました。
どういうことかというと、
胎児期の低栄養状態などの環境要因がEpigeneticsのメカニズムで、代謝上の適合状態を形成したものの、成長期の過剰栄養体に適応できずに成人病の発症リスクが高まるというものです。
Epigeneticsというのは、DNA配列を変えることなく、細胞分裂後も継承される遺伝子発現です。
簡単な例を挙げると、
一卵性双生児(DNA配列は同一)でも
- 日本で育った子:痩せていて背が低い
- アメリカで育った子:太って背が高くなる
といったことです。
つまり、環境によって左右されるというのが、この仮説の特徴です。
タバコでこの仮説を例えると、
妊娠中
- ニコチン:血管収縮
- 一酸化炭素:酸素供給不足
によって、胎児は低栄養状態となります。
そこで胎児は、糖を脂肪に変えて蓄える形で低栄養に対処します。
しかし、成長期になると高脂肪・高カロリーの食事になるため(現代の食事を考えるとわかると思います)、インスリンの分泌過多・内臓脂肪蓄積から成人病発症リスクが高まります。
インスリンが分泌されるのは血糖を抑えるためです。
ちなみにインスリンは血糖を抑える唯一のホルモンです。
そして、有り余った糖は脂肪へと蓄積されます。
内臓脂肪はインスリンの抵抗性を上げたりするため、インスリンが分泌されても、血糖が下がらなくなっていきます。
これにより、糖尿病などの成人病にかかりやすくなっていきます。
SIDS(乳幼児突然死症候群)
タバコの害で最大なのはやはり「死」です。
事故死・病死の減ってきた現代の先進国での最も大きな乳児死の原因はこのSIDSです。
特徴として、
- 生後2~4ヶ月の間に起こりやすい
- 大抵睡眠中に起こる
です。
機序についてはまだはっきりとしていません。
可能性としてですが、
妊娠中の喫煙により、胎児の早産や発育遅延を起こし、酸素の吸入や心機能を制御する脳のシステムが未熟なまま出生してシステムの成熟が阻害されることなどによって、酸素不足に対する反応が障害されているといわれています。
動物実験では、
妊娠中にニコチンに曝されると、低酸素に対する反応性が落ちるという結果が出ています。
妊娠中に喫煙した母親から生まれた赤ちゃんは、非喫煙者から生まれた赤ちゃんと比較すると
- 深い睡眠から覚醒しにくい
- 突然のストレスに対する反応が障害される
という報告もあります。
無呼吸は未熟児によくみられる現象です。
さらに無呼吸は感染や呼吸不全が引き金となります。
気管支で異物・細菌などを除去する機能を持つ繊毛の脱落などの機序で、感染や呼吸不全の危険性は増加します。
他にも、色々あるのですが、簡単に紹介すると
- 感染に対する炎症反応が亢進
- 父の喫煙による受動喫煙により突然死の危険性が2.5倍
- 両親ともに喫煙すると突然死の危険性が約4倍
- 家庭内で喫煙するほど、乳児死亡の危険性が増す
といわれています。
まだしゃべることもままならない子どもだと、どこがつらいのかも判断することができません。
気づくのが遅くて対処できないということもあるでしょう。
そういう点でも、子どもの死に対するリスクを減らすためにも、禁煙は必要だと思います。
注意欠陥・他動性障害(ADHD)
これは知っている人もいるのではないでしょうか。
注意散漫で一つのことに集中できないというのが特徴ですね。
これも実は喫煙と関係があるという報告が挙げられています。
妊娠中の受動喫煙による遺伝子の障害が機序と考えられ、最近大規模な疫学的調査でも、喫煙との因果関係が強く示唆されたそうです。
子どものことを考えると、妊娠中に喫煙する人の多い場所に行くことも避けるべきですね。
今回は、1歳までの子どもの喫煙との関係性について紹介しました。
次回は、学童期までの子どもの喫煙との関係性についてまとめていこうと思います。
参考文献
1)野田隆:子どもとタバコにまつわる問題点.健康心理学研究,2016,28:p113~119.