予防のススメ

健康や疾病予防に関する情報や、趣味の読書で得た知識などをまとめています。

喫煙によって痛みを感じやすくなる?がんによる痛みについて③

 がんによる痛みシリーズはこれで最後になります。

 今回は、がんやがん治療と直接関係しない痛みと喫煙の関係性について、まとめます。

 

目次

 

合併疾患

がん患者に高率に合併しうる疼痛疾患として、帯状疱疹後神経痛(PHN)があげられます。

 定義としては、

皮疹が治癒した痕の皮下の部分を中心に長期にわたって残る痛みの状態 

 とされています。

 帯状疱疹は免疫抑制状態の患者が罹ると重篤な全身疾患となる危険があります。

 帯状疱疹が痂疲形成を終了し、落屑末期頃に痛みがneuropathic painの性質を帯びてきたとき、帯状疱疹後神経痛と診断されます。

 neuropathic pain...英語で難しいですね。

 この性質は、痛みの質が炎症による痛みから質が変わり、皮疹があった部分の

  • 皮下に刺すような痛み
  • 電撃痛

が起こります。

 また、

  • 皮膚表面が灼けつくようにヒリヒリする感じ
  • 鈍痛が皮疹痕皮下に続く
  • 痛みの部位を明確に指示することが難しい
  • 感覚低下

が見られます。

 

性状

 上記に述べた痛みと皮疹痕の皮膚感覚状態から大きく2種類に分けることができます。

 その1

  • 一定の神経支配領域に全域にわたる強い感覚低下
  • ロディニアはほとんど見られない
  • 鋭い持続性のものが多い
  • 激痛を伴うこともある
  • 遭遇頻度は低いが癒り難い

 アロディニアというのは、通常では疼痛をもたらさないようなちょっとした刺激でも疼痛として認識される異常感覚のことです。

 

 その2

  • 皮疹瘢痕部の感覚低下の度合いが同一神経支配内であっても部分的に程度が異なっている
  • ある部分は正常、一部分は強い感覚低下またある部分は感覚低下の程度が弱い
  • ほとんどにアロディニアが見られる
  • 痛みは4種類の痛みの色々な組み合わせのものが見られる

 

また、1と2が混ざりあった症例もあるそうです。

 

発生機序

帯状疱疹痛の発生機序

 文字ばかりですが、ご了承くださいorz

 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の初感染症である水痘が治った後VZVは脊髄の後根細胞内にDNAとして不顕性の形で潜みます。

 これが、蛋白膜を破ってVZVとなり、一側の後根細胞内で増殖を起こします。

 VZVは脊髄後根細胞から末梢に運ばれ、皮下で増殖して炎症が起こります。

 

 脊髄の後根細胞は感覚神経が入ってきます。

 そのため、後根細胞の末梢、つまり感覚器の方向へ進んでいくと皮膚に到達します。

 神経の伝導路としては、後根細胞からは本来、脊髄へ向かい、脳へと向かっていきます。

 しかし、脊髄後根細胞からの物質輸送の95%は末梢側に向かって流れるのです。

 

 皮下で増殖して炎症が起こると、丘疹、水疱、膿疱となり周囲に発赤を生じます。

 脊髄後根細胞から皮膚末端までの中間部分でVZVの増殖による炎症が起こると、神経の伝達機能が障害され、部分的な感覚低下、消失が起こるといわれています。

 さらに、強い感覚低下が起こったものは痛みが長期化することもわかっています。

 

帯状疱疹後神経痛の発生機序

 損傷の度合いと痛みによって2つのパターンがあります。

 その1

 脊髄後根細胞から末梢端、皮疹があった末梢端に近い部分の神経周辺のVZVによる炎症病変が主体

 皮膚に感覚低下を伴い、自発痛ないし触刺激によってアロディニアが誘発される

 上記の その2 の症状に該当

 

 その2

 脊髄後根細胞が強い炎症のため大きく破壊されると、強い感覚低下が広い範囲に生ずる

 この影響は脊髄後角の中枢側の二次細胞へ変化が及びアロディニアではない痛みが長期間にわたって存在する

 

 また、帯状疱疹後神経痛の発生原因の主要部分を占めるといわれているのは、

 感覚神経末梢端を中心とした炎症による損傷のあと軸索発芽が起こると、自発活動が起こってきて機械的刺激に対する感受性が増大する

 というものです。

 

痛みと喫煙の関係

 PHNについて述べてきましたが、ここから喫煙との関係性に戻ります。

 帯状疱疹と診断された患者441人のうち30%が3ヶ月後にPHNと診断されました。

 そして、

帯状疱疹発生時の痛みと強さと喫煙には有意に関係がありました。

 さらに、

喫煙はPHNへの移行における予測因子の一つでもありました。

 

 また、喫煙と腰痛との関連があります。

 2009年までに発表された40研究のメタ解析によると

  • 喫煙者と禁煙者ともに、非喫煙者に比べて腰痛の発生が約1.3倍
  • 喫煙者は慢性腰痛、日常生活に支障をきたす腰痛と有意な関連があった

と報告しています。

 腰痛で悩む人は日本では肩こりと同じくらい多いですが、喫煙でも助長されるんですね。

 

 いかがでしょうか。

 PHNの話が大半でしたが、がんやその治療に関りがなくても、痛みが起こってしまいます。

 また、喫煙がそれらを助長しています。

 喫煙によるメリットはないですね...。

 今回は、これで失礼します。

 

参考文献

1)檀健二郎:帯状疱疹後神経痛の治療と予防.PAIN RESEARCH,1995,10(1):p1~8.

2)杉山陽子,飯田宏樹:喫煙とがん患者の痛み.日本ペインクリニック学会誌,2019,26:p1~7.