がんのリハビリテーションってどんなことを知ればいいの?
私が勤務している病院ではがん患者のリハビリテーションも行っています。
また、緩和ケア病棟もあり、緩和的リハビリテーションも行っております。
そこではほとんどががん患者さんです。
自分の知識固めとして、がんリハビリテーションを行う方のために、少しでも役に立てばと思い、今回はがんリハビリテーションについてまとめようと思います。
目次
共存
人口の高齢化とともに、がんの罹患率は年々増加しており、生涯でほぼ2人に1人ががんになる時代になっております。
全く治らない、なったら死ぬという病ではなくなってきており、2006年から2008年にがんと診断された人の5年相対生存率は男女計で62.1%となっております。
少なくとも半数以上が長期生存可能となっております。
生き続けられるようになったこともあり、がんの治療を終えた、あるいは治療を受けているがんサバイバーは500万人を超えており、毎年60万人ずつ増えていると言われております。
「不治の病」から「がんと共存」する時代へと流れがきております。
なので、がんになってしまったからと、気を落としすぎず、これからどうするかを考えることが必要となってきます。
病期
がんリハは4つの段階に分けられております。
- 予防的:がんの発見時期。がんの診断後の早期(手術、放射線、化学療法の前から)に開始。機能障害はまだないが、その予防を目的とする。
- 回復的:治療開始時期。機能障害、能力低下の存在する患者に対して、最大限の機能回復をはかる。
- 維持的:転移・再発の時期。腫瘍が増大し、機能障害が進行しつつある患者のセルフケア、運動能力を維持・改善することを試みる。自助具の使用、動作のコツ、拘縮、筋力低下など廃用予防の訓練も含む。
- 緩和的:末期がんの時期。末期のがん患者に対して、その希望(Hope)/要望(Demands)を尊重しながら、身体的、精神的、社会的にもQOLの高い生活が送れるように援助する。
このような段階になっております。
個人的には、がんにならないように禁煙、運動習慣をつける、生活習慣を見直すといったことも重要だと感じております。
対象となる障害
対象も大きく分けることができます。
1つはがんそのものによる障害、もう一つは主に治療の過程においておこりうる障害です。
がんそのものによる障害
この中でもさらに分類することができます。
直接的影響と、間接的影響です。
直接的影響
こちらはがんそのものによって起こる障害です。(言葉通りでしたね(笑))
間接的影響
- がん性末梢神経炎(運動性・感覚性多発性末梢神経炎)
- 悪性腫瘍随伴症候群(小脳性運動失調、筋炎に伴う筋力低下など)
主に治療の過程においておこりうる障害
文字通りですが、がんそのものによる障害でなく、治療によって起こる障害です。
副作用みたいな感じですね。
こちらもいくつか種類があります。
全身性の機能低下、廃用症候群
科学・放射線療法、造血幹細胞移植後
手術
- 骨・軟部腫瘍術後(患肢温存術後、四肢切断術後)
- 乳がん術後の肩関節拘縮
- 乳がん・子宮がん手術(腋窩・骨盤内リンパ節郭清術)後のリンパ浮腫
- 頭頚部がん術後の摂食嚥下障害、構音障害、発声障害
- 頸部リンパ節郭清術後の副神経麻痺(僧帽筋の筋力低下・萎縮、翼状肩甲)
- 開胸・開腹術後(食道がんなど)の呼吸器合併症
化学療法
四肢末梢神経障害(感覚障害による上肢巧緻性・バランス障害、腓骨神経麻痺など)
放射線療法
横断性脊髄炎、腕神経叢麻痺、摂食嚥下障害、開口障害など
このように、がんそのものによってや、治療の過程で様々な障害が起こります。
一つ一つ解説するのは時間がかかってしまうので今回は割愛します(-_-;)
リハビリテーションの実際
では実際にどのようにリハを進めていくのでしょうか。
簡単にですがまとめていきます。
周術期
ここでの目的は、術前および術後早期からの介入により
- 術後合併症の予防
- 後遺症を最小限にする
- 速やかに回復
上記3点を図ります。
周術期呼吸リハビリテーション
・食道癌:開胸開腹手術症例では全例が対象。接触・嚥下障害に対する対応も行う。
・肺がん・縦隔腫瘍:開胸手術症例では全例が対象。
・消化器系の癌(胃・肝・胆嚢・大腸など):開腹手術では高リスク例が対象
頭頚部癌のリハビリテーション
・舌癌などの口腔癌、喉頭癌:術後の摂食・嚥下障害。構音障害に対するアプローチ
・喉頭癌:後頭摘出術の症例に対する代用音声(電気喉頭、食道発声)練習
・頸部リンパ節郭清術後:副神経麻痺による肩運動障害(僧帽筋筋力低下)に対する対応
乳癌・婦人科癌のリハビリテーション
・乳癌:術後の肩運動障害への対応。腋窩リンパ節郭清術後のリンパ浮腫への対応
・子宮癌など婦人科癌:骨盤内リンパ節郭清術後のリンパ浮腫への対応
骨・軟部腫瘍のリハビリテーション
・患肢温存術・切断術施行:術前の杖歩行練習と術後のリハ。義足や義手の作製
・骨転移(四肢長管骨、脊椎、骨盤など):放射線照射中の安静臥床時は廃用症候群の予防、以後は安静度に応じた対応、長管骨手術(人工関節、骨接合)後のリハ
脳腫瘍のリハビリテーション
・原発性・転移性脳腫瘍:手術前後の失語症や空間失調など高次脳機能障害、運動麻痺や失調症などの運動障害、ADLや歩行能力について対応。必要があれば術後の全脳照射・化学療法中も対応を継続
放射線・化学療法中・後
放射線や化学療法中は、がん自体の痛みや治療の副作用による疼痛やしびれ、他にもCRF、嘔気・下痢、口腔内の粘膜障害による食欲の減退・栄養状態の悪化や睡眠障害が起こります。
補足ですが、喫煙絡みでがんによる痛みについてまとめた記事があるのでよかったらこちらもご参照ください↓
続きます。
骨髄抑制により感染予防のためクリーンルームに隔離されると精神的ストレス、うつ状態、意欲の低下をきたしてしまいます。
以上のことから、昼間でもベッド上で寝たきりになりやすくなってしまいます。
不活動により、筋活動も低下します。
筋肉を動かさないため、筋骨格系の機能の低下が起こり、より不活動になります。
さらに、心血管系や他の臓器の機能低下が起き全身のデコンディショニングが生じます。
そこからさらに不活動が助長されるといった、
不活動 → 筋活動の低下 → 筋骨格系の機能低下 → 不活動
→ 心血管系や他の臓器の機能低下 → 全身のデコンディショニング →不活動
という、負のスパイラルに陥ってしまいます。
また、がんが体内に存在する場合は悪液質による影響も考えなくてはいけません。
悪液質は単なる栄養学的異常ではありません。
代謝・免疫・神経化学的異常によって引き起こされると考えられております。
腫瘍産生因子、腫瘍壊死因子などが筋蛋白を分解することにより、骨格筋が萎縮し、筋力や筋持久力の低下を引き起こされるのです。
以上のことから、身体活動性の維持・向上を目的とした対応を積極的に行う必要があります。
有酸素運動や抵抗運動を定期的に行うことで、心肺系・筋骨格系機能の改善だでなく、全身倦怠感の減少、自信や自尊心の保持、ボディイメージの改善、QOLの向上といった波及効果も報告されています。
終末期(緩和ケア主体の時期)
- 移動や排便・排尿が死亡の10日前
- 食事は1週間前
- 水分摂取・会話・応答は2~3日前
から困難になると言われております。
緩和ケア病棟の調査では
死亡退院した154名のがん患者のうち、トイレ歩行可能であった割合は、死亡1ヶ月前で約半数、2週間前で約1/3、1週間前で約1/5であった。
という報告があります。
じょじょに活動が制限されていくなか、緩和ケアにおけるリハの目的は
「患者家族の希望(Hope)/要望(Demands)を十分に把握したうえで、身体に負担が少ないADLの習得とその時期におけるできるかぎり質の高い生活を実現すること」
に集約されます。
本来、医療では医療者側のニーズが優先されがちです。
しかし、ここでは患者の希望・要望をかなえられるようにチームで考えていくことが求められます。
機能の回復は難しい場合が多いですが、リハの介入により
動作のコツや適切な補装具を利用し、痛みや筋力低下をカバーする方法を指導することで、残存する能力をうまく活用することもできます。
そうすることで、ADL・基本動作・歩行の安全性の確立および能力向上を図ります。
ベッド上での寝たきりの場合でも廃用症候群の予防・改善や、摂食嚥下面では食形態や食べ方、姿勢の調整などの代償手段、介護指導や自宅環境調整も必要となります。
病状の進行とともにADLが下降していく時期は必ずおとずれます。
それ以降は症状緩和や精神心理面のサポートが主体となります。
疼痛、浮腫、呼吸困難感に対する症状緩和や「治療がまだ続けられている」という心理支持的な援助もリハ介入効果といえるでしょう。
何よりも、患者さんに寄り添うことがここでは大切だと思います。
長くなってしまいましたが、がんのリハビリテーションの概要としてはこのような形になります。
リスク管理や詳細な内容もこれから紹介できればと思います!