予防のススメ

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喫煙するから痛い?そのメカニズム

  これまで、喫煙ががん患者の痛みに関係していることを、3回に分けて紹介させていただきました。

 

 しかし、なぜ喫煙によって痛みが起こってしまうのか、そのメカニズムを知りたくありませんか?

 それを知ることも、禁煙するきっかけになるかもしれません。

 今回は、喫煙によってどのように痛みが起こるのか、まとめていきます。

 

目次

 

考えるべき点

 3回に分けた投稿で、喫煙は痛みを生じやすく重症化させやすいと考えられていることがわかったと思います。

 

 ここでまず考えるべきなのは、

 "喫煙するから痛い" のか

 "痛いから喫煙する" のか、という点です。

 

 どういうことかというと、実はニコチンの急性刺激として鎮痛効果があるといわれています。

 それにより、痛みを抑えようと喫煙をしている可能性も考えられます。

 しかし、ニコチンの離脱症状が痛みの感受性を上げている可能性も示唆されます。

 痛みのある喫煙患者はこれを回避しようとしてタバコを吸ってしまう傾向にあるとも言われています。

  今回は、先述した"喫煙するから痛い"メカニズムについて紹介しようと思います。

カニズム

 タバコは何千もの化学物質を含有しておりその多くが生理学的作用を有しています。

 中でも代表的な成分として、ニコチンが挙げられます。

 以前の記事でも簡単に紹介していますので、よかったらご参照ください。

 

mt117.hatenablog.com

 言葉等難しいものばかりになってしまいますが、ご了承くださいorz 

 喫煙によって摂取されたニコチンはイオンチャネル型受容体であるニコチン性アセチルコリン受容体に結合します。

 この受容体は、中枢神経および末梢神経に広く分布しており、覚醒、睡眠、不安、認知、痛みなどに関係しています。

 そして、急性のニコチン受容体刺激は鎮痛効果を示すそうです。

 これには、内因性のオピオイドシステムを介しているといわれています。

 内因性のオピオイドシステムというのは、疼痛抑制機構の内の一つです。

 この鎮静効果によって落ち着きやすくなったりするのでしょうね。

 「ちょっと一服~」というのは、この刺激を求めているのかもしれません。

 

 しかし、喫煙者にみられる慢性的なニコチン曝露は受容体やその反応性にさまざまな変化をもたらします。

 喫煙者では、脳内のニコチン受容体が増加します。

 持続的なニコチン投与で受容体の脱感作と耐性が比較的早期に生じるといわれています。

 脱感作というのは、簡単に言うとある刺激に対して反応しなくなることです。

 ニコチン耐性ラットでは、神経障害性痛モデルでの機械刺激に対する痛覚過敏が増強したそうです。

 つまり、ニコチンを持続的に摂取していると、鎮痛効果がなくなり、疼痛に過敏になってしまうのです。

 これには、脊髄でのダイノルフィン濃度の増加やサイトカイン産生が関与していると考えられています。

 他にも、Hawkinsらの研究では、

 ニコチンを慢性的に投与したラットでは脊髄三叉神経核や三叉神経節において炎症性サイトカインをはじめとした炎症シグナル伝達に関与する様々な蛋白の発現が増加し、アストロサイトやミクログリアの活性化マーカーの発現が増加しているのが観察されたそうです。

 また、同神経領域に機械的痛覚過敏が生じていたそうです。

 難しい話ばかりですが、これらのことから、

 ニコチンの慢性的な曝露が侵害受容ニューロンの末梢性感作、中枢性感作に関与しているのではないかと推察されています。

 

 さらに、慢性的な喫煙を中断したときのニコチン離脱症状としても痛覚過敏が生じます。

 それを証明するラットの実験があります。

 持続投与したニコチンを中止すると機械的刺激や熱刺激に対する痛み閾値が低下します。

 この機序として、

  • 脊髄ミクログリア機能の変化
  • 扁桃中心体のコルチコトロピン放出因子受容体を介した反応

などが考えられています。

 ・・・難しいですね。

 

 また、喫煙は神経内分泌系の反応も変化させます。

 喫煙の急性刺激は

 ストレス反応(交感神経ー視床下部ー下垂体ー副腎刺激)を促進します。

 この反応は痛み閾値を上げます

 つまり、痛みを感じにくくするのです。

 

 しかし、慢性的な喫煙では圧受容体機能やβエンドルフィン濃度が低下し、ストレス反応は減弱化します。

 これにより、痛みを感じやすくなってしまいます。

 

痛みの慢性化

 喫煙が痛みの増強因子というだけでなく痛みの慢性化にも影響しうることを示唆する研究もあります。

 ヒトのfMRIを用いた研究では、

 亜急性期(4~12週)の腰背部痛患者68人を1年間追跡し、症状が改善した群と遷延した群で側坐核ー内側前頭前野という、嗜癖行動に関連すると考えられる2領域間の活性と喫煙状況を調査しました。

 この皮質線条体回路の活性が強いほど慢性痛への移行リスクが増加し、喫煙者の脳で非常に強くなっていたそうです。

 また、禁煙すると同部位の活性化は有意に下がっていたそうです。

 禁煙によって脳の活性も変わるんですね。

 

 さらに、喫煙は痛みの原因となる組織構造変化を生じさせます

 喫煙は骨粗鬆症、腰椎椎間板症の危険因子としても知られています。

 一番最初の記事にこれらを入れていなかったですね。

 調べていくと喫煙は様々な疾患の危険因子だということがわかってきます。

 喫煙により、微小血管障害や一酸化炭素ヘモグロビン濃度の上昇をきたすことで

  • 組織の酸素供給を障害
  • 外傷や術後の創傷治癒、骨治癒の遅延

をもたらし組織の変性を促進すると考えられています。

 

 Akmalらは

 ニコチンが椎間板の髄核細胞の増殖抑制や細胞構造破壊を起こし椎間板を変性させることを示しています。

 

 タバコ煙に含まれる多環芳香族炭化水素について簡単に紹介します。

 これには、強力な薬物代謝酵素誘導作用があります。

 これにより、喫煙によって薬物相互作用によって鎮痛薬の期待された効果が得られない可能性があるそうです。

 

 これまで、"喫煙するから痛い"メカニズムについて紹介しました。

 次回は"痛みがあるから喫煙してしまう"メカニズムういて紹介します。

 

参考文献

1)谷口千枝:喫煙と痛み―がん関連痛を中心に―.日本ペインクリニック学会誌,2018,25(2):p63~68.

2)杉山陽子,飯田宏樹:喫煙とがん患者の痛み.日本ペインクリニック学会誌,2019,26:p1~7.